はじめに
企業が海外向けに情報を発信したり、外国人材を受け入れたりする機会が増える中、契約書、マニュアル、Webサイト、採用情報、社内規定など、さまざまな文書の翻訳が必要になっています。
しかし、翻訳は単に日本語を外国語へ置き換えれば完了するものではありません。
正確で品質の高い翻訳を実現するためには、翻訳後のチェックとファクトチェックが重要です。
では、翻訳チェックとファクトチェックにはどのような違いがあり、なぜ必要なのでしょうか。
翻訳チェックとは?
翻訳チェックとは、完成した翻訳文が原文の内容を正確に反映しているか、外国語として自然で分かりやすい文章になっているかを確認する作業です。
翻訳チェックでは、主に以下のような項目を確認します。
- 誤訳や訳抜けがないか
- 原文の意味が正確に伝わっているか
- 数字、日付、金額、単位が一致しているか
- 固有名詞や専門用語が正しく訳されているか
- 用語や表記が統一されているか
- 文法やスペルに誤りがないか
- 読み手にとって不自然な表現になっていないか
特に重要なのが、原文と翻訳文を照合する作業です。
文章として自然に読める翻訳であっても、原文の一部が抜けていたり、数字が変わっていたりすれば、正確な翻訳とはいえません。
そのため、翻訳の品質管理では、文章の自然さだけでなく、原文との一致性を確認することが重要になります。
ファクトチェックとは?
一方、ファクトチェックとは、翻訳文の表現ではなく、原文に記載されている情報そのものが正しいかを確認する作業です。
例えば、原文に「この制度は2024年から開始された」と書かれていた場合、その文章を正確に外国語へ翻訳するだけなら、翻訳者の作業としては問題ありません。
しかし、実際には制度が2025年から開始されていたとすれば、翻訳そのものは正しくても、読者には誤った情報が伝わってしまいます。
つまり、
翻訳チェック=正しく翻訳されているか
ファクトチェック=書かれている情報が正しいか
という違いがあります。
この2つは似ているようで、確認する対象が異なります。
なぜ翻訳にファクトチェックが必要なのか
法律、制度、税金、在留資格、雇用条件、製品仕様、医療、金融などの専門的な情報は、法改正や制度変更、企業の方針変更などによって内容が変わる場合があります。
そのため、過去に作成した資料をそのまま翻訳すると、現在の情報と異なる内容を外国語で発信してしまう可能性があります。
特に外国人材向けの翻訳では、在留資格、就労条件、社会保険、給与、勤務時間、休暇、各種手続きなど、生活や仕事に直接関係する情報を扱うことがあります。
こうした情報に誤りがあると、単なる翻訳ミスにとどまらず、誤解や手続き上のトラブルにつながる可能性があります。
そのため、必要に応じて最新の公的情報や公式情報を確認し、**「翻訳する前の情報そのものに誤りがないか」**を確認することが大切です。
翻訳チェックで注意したい「数字」
翻訳業務の中でも、特に注意が必要なのが数字です。
給与額、価格、数量、割合、日付、勤務時間、契約期間、申請期限などは、わずかな入力ミスでも意味が大きく変わります。
例えば、「10万円」と「100万円」では、数字が一つ違うだけでまったく異なる情報になります。
そのため、翻訳チェックでは、原文と翻訳文を照合しながら、数字だけでなく単位や日付、期間、条件まで確認することが重要です。
さらに、数字が正しくても、国や地域によって一般的な表記方法が異なる場合があります。
桁区切り、小数点、日付の順番など、対象となる読者にとって分かりやすい表記になっているかも確認する必要があります。
**「数字が合っているか」だけでなく、「現地の読者に正しく伝わる表記になっているか」**という視点が重要です。
弊社では、上記についても念入りに確認を行っております。
数字の区切りについては、区切りがカンマになるかピリオドになるかについて、また数字と共に単位の記号についても現地で一般的な単位にローカライズを含めて行っています。
専門用語や固有名詞も要チェック
企業名、商品名、行政機関名、制度名、資格名などの固有名詞も、翻訳時に注意が必要な項目です。
一般的な訳語を使用するのではなく、正式名称や公式に使用されている表記を確認することで、情報の正確性を高めることができます。
また、専門用語については、文書内で訳語を統一することも重要です。
同じ言葉をページごとに異なる表現で翻訳すると、読者が別の意味として受け取ってしまう可能性があります。
そのため、翻訳前に用語集を作成したり、翻訳支援ツールなどを活用したりして、用語や表記を統一する方法も有効です。
「直訳しない」ことも翻訳品質の一つ
高品質な翻訳では、原文を一語ずつ直訳することが必ずしも正解とは限りません。
特に日本特有の制度や文化、商習慣に関する表現は、直訳すると外国人の読者に意味が伝わりにくい場合があります。
例えば、「正社員」「扶養」「手取り」「更新」など、日本人には一般的な言葉でも、外国人にとっては具体的な意味が分かりにくいことがあります。
こうした場合には、原文の意味を変えない範囲で補足したり、読者が理解しやすい表現に置き換えたりすることが求められます。
ただし、翻訳者が独自の判断で制度や契約内容を変更してはいけません。
重要なのは、原文の意味を正確に保ちながら、読者に誤解なく伝えることです。
翻訳会社に求められるチェック体制
翻訳の品質を高めるためには、一人の翻訳者だけですべてを確認するのではなく、複数の視点からチェックすることが有効です。
例えば、翻訳者が翻訳を行った後、別の担当者が原文との照合を行い、必要に応じて専門知識を持つ担当者が内容を確認します。
さらに、対象言語を母語とするネイティブによるチェックを加えることで、文法だけでは判断しにくい自然さや文化的な違和感も確認できます。
このように、
翻訳者によるチェック → 原文との照合 → ファクトチェック → 専門担当者による確認 → ネイティブチェック
といった工程を組み合わせることで、より信頼性の高い翻訳につながります。
まとめ|高品質な翻訳にはチェックとファクトチェックが欠かせない
翻訳におけるチェックとファクトチェックは、それぞれ役割が異なります。
翻訳チェックは「正しく翻訳されているか」を確認する作業であり、ファクトチェックは「翻訳する情報そのものが正しいか」を確認する作業です。
特に、法律、在留資格、採用、外国人材、製品情報、行政手続きなど、正確な情報が求められる分野では、両方の確認が重要になります。
「正しく訳す」だけでなく、「正しい情報を、分かりやすく、誤解なく伝える」。
この視点を持って翻訳チェックとファクトチェックを行うことが、企業の信頼性を高め、読み手に安心して情報を届けることにつながります。
高品質な翻訳を実現するためには、翻訳者の語学力だけでなく、原文との照合、情報の確認、専門分野のチェック、ネイティブチェックなど、複数の工程を組み合わせた品質管理が重要です。




