「短い文章だからAI翻訳で十分」は本当?――単語ほど誤訳しやすい、多言語翻訳の落とし穴

AIや機械翻訳の進歩によって、外国語への翻訳は驚くほど身近になりました。

文章を入力すれば、わずか数秒で英語、中国語、タイ語、ドイツ語などに翻訳できます。特にホテルや飲食店、観光施設のWebサイト、館内表示などの短い文章であれば、

「この程度ならAI翻訳で十分」
「単語だけだから間違えることはないだろう」

と思われる方も多いのではないでしょうか。

しかし、翻訳の現場から見ると、実は逆の場合があります。

文章が短ければ短いほど、翻訳するための情報が少なくなり、AIや機械翻訳が意味を取り違える可能性があるからです。

「ホーム」が中国語で「家」に?

先日、あるホテルのWebサイトを見ていたところ、非常に分かりやすい例がありました。

サイトのメニューにある「ホーム」が、中国語で「家」を意味する言葉に翻訳されていたのです。

もちろん、日本語の「ホーム」だけを取り出せば、「home=家」という意味があります。

しかし、Webサイト上の「ホーム」は「家」ではなく、トップページへ戻るためのナビゲーションを意味しています。

翻訳システムに十分な文脈が与えられなければ、単語としては間違っていなくても、用途としては不適切な訳を選んでしまうことがあります。

「フード&ドリンク」が「パーカー&飲料」に?

さらに別の旅館のサイトでは、「フード&ドリンク」にも問題がありました。

本来は「食事・飲み物」を案内するメニューですが、中国語では「フード」の部分が「连帽衫(連帽衫)」と表示されていました。

「连帽衫」は、フード付きのスウェットやパーカーなどを意味する中国語です。

英語の「hood」には衣服のフードという意味がありますが、日本語の「フード&ドリンク」の「フード」は英語の「food=食べ物」です。

人がホテルのWebサイトを見れば、まず間違えないでしょう。

ところが、文字列だけを機械的に処理し、その後に確認する工程がなければ、このような思いもよらない訳がそのまま公開されてしまう可能性があります。

短い言葉ほど「何を指しているか」が重要

これは中国語だけの問題ではありません。

例えば、日本語の「受付」。

ホテルならフロントデスク、病院なら受付窓口、イベントなら参加登録を行う場所など、同じ「受付」でも場面によって意味が変わります。

ドイツ語でも、ホテルの受付なら一般に「Rezeption」が自然ですが、「受付」という日本語だけを渡されても、常にそれが最適とは限りません。

「売店」も同様です。

以前の記事でも触れましたが、日本の「コンビニ」をそのまま外国語に置き換えても、日本と同じ店舗形態が一般的でない国では、利用者がイメージしにくい場合があります。

大切なのは辞書上の訳語ではなく、「そこで何をする場所なのか」まで理解して訳すことです。

タイ語でも必要になる「文脈」

タイ語への翻訳でも、短い案内表示だから簡単とは限りません。

例えば日本語の「サービス」という言葉。

「無料サービス」「ホテルのサービス」「サービス料」「セルフサービス」では、それぞれ意味が異なります。

日本語では便利に一つのカタカナ語を使っていますが、翻訳する際には、それが「無料提供」を意味するのか、「接客・業務」を意味するのか、「料金」を意味するのかを判断しなければなりません。

「サービス」という一語だけを翻訳システムに入力するより、

「ホテル宿泊者向けの無料サービス」
「レストランのサービス料」

など、用途や背景を伝えた方が適切な翻訳につながります。

AI翻訳の精度が低いのではなく「情報が足りない」

AI翻訳や機械翻訳そのものを否定することではありません。現在のAI翻訳は非常に優秀です。長い文章では前後の文脈から意味を判断できるため、むしろ自然な翻訳ができるケースも増えています。

問題は、翻訳するための情報が十分に与えられているかです。

例えば、

「ホーム」「フード」「受付」「サービス」「ボトル」

これだけを渡された場合、人間の翻訳者でも「どのような場面で使いますか?」と確認することがあります。

ましてAIが用途も実物も知らない状態であれば、複数の候補から違う意味を選んでしまっても不思議ではありません。

以前、弊社が扱った「ボトル」の翻訳でも、実物を確認することの重要性がありました。

日本語ではどちらも「ボトル」と呼べても、中国語では小さな容器なら「瓶」、ウォーターサーバーなどに使う大型容器なら「桶」など、対象物によって訳語が変わります。

翻訳したい言葉が短いほど、その言葉の外側にある情報が重要になる。

これは、多言語翻訳でぜひ知っていただきたいポイントです。

「AI翻訳→そのまま公開」にしない

では、AI翻訳を使ってはいけないのでしょうか。

もちろん、そうではありません。

大量のWebページや案内文を多言語化する場合、AI・機械翻訳を活用することで、翻訳に必要な時間やコストを抑えられるという大きなメリットがあります。

ただし、原文 → 機械翻訳 → 公開で終わらせるのではなく、

原文 → 機械翻訳 → 人によるチェック・修正 → 公開という工程を設けることが重要です。

これが、機械翻訳後の「ポストエディット」です。

人が実際のWebサイトや掲示場所、写真、商品、設備などを確認すれば、「ホーム=家」「フード=衣服のフード」といった文脈違いの翻訳を発見できます。

翻訳で大切なのは「訳せるか」ではなく「正しく伝わるか」

インバウンド需要が高まり、ホテル、駅、空港、飲食店、観光施設などでは、多言語対応がますます重要になっています。

AIによって「外国語にする」こと自体は、以前よりはるかに簡単になりました。

だからこそ、これから問われるのは**「翻訳できたか」ではなく、「利用する外国人に正しく伝わっているか」**ではないでしょうか。NAIwayでは、翻訳者による人力翻訳とチェックはもちろん、AI・機械翻訳を活用した後のチェック、校正(ポストエディット)にも対応しています。

「短い文章だから大丈夫」と考えず、何を指しているのか、どこで使われるのか、現地の人が見て自然に理解できるのかまで確認する。

AIのスピードと人の判断力を上手に組み合わせることが、コストを抑えながら安心して使える多言語コンテンツをつくるための重要な翻訳工程だと私たちは考えています。多言語化によって、あなたの店舗や製品の魅力を、世界中の人々へ届けてみませんか?