AI翻訳時代の落とし穴と、正しい「ポストエディット」の選び方

〜コストと品質のバランスから導く成功へのアプローチ〜

数年前のことです。「以前、低価格を売りにする翻訳会社を選んでしまい、本当に苦労した」というお客様から、新たに翻訳のご依頼をいただいたことがありました。

当時はまだAI翻訳がここまで一般化する前。私たちも「翻訳会社の選定ミスは、本当に高くつくのだな」と痛感した案件でした。

そして今、改めてこのエピソードを思い返すと、当時以上に重い意味を持って迫ってきます。AI翻訳(機械翻訳)がここ数年で驚異的に進化し、ビジネスの現場に深く浸透した結果、「翻訳にかかる初期コスト」は確かに下がりました。けれど、その裏にあるリスクは消えたわけではなく、形を変えて、より見えにくいところに潜んでいるだけなのです。

今回は、当時ご相談いただいた「フランス語から英語への、ボリュームある年次決算報告書(アニュアルレポート)」の事例を改めて振り返りつつ、現代の翻訳ビジネスのキーワードである「ポストエディット(PE)」の正しい知識と、企業の信頼を守る翻訳会社の選び方について整理してみます。


安価の裏に潜む「修正に1ヶ月」という、見えない代償

このお客様からご相談をいただいたとき、対象文書を拝見するために弊社からお伺いしました。

机に出てきたのは、ずっしりとした年次決算報告書でした。

これは株主、投資家、各国の規制当局に対して、自社の経営状態を正しく開示するための、一文字のミスも許されない書類です。数字、注記、会計方針、リスク開示。どれをとっても、ニュアンスの曖昧さが命取りになる類のドキュメントです。

なぜ、ほかではなく弊社にご相談くださったのか。理由を伺うと、かなり深刻な背景がありました。

過去に同様の財務書類を翻訳する必要が生じた際、コストを最優先して「低価格」を大々的にアピールしている翻訳会社に依頼したとのことです。ところが納品された訳文は、ビジネスで使えるレベルにはほど遠かった。

  • 専門用語の致命的な誤訳
  • 文脈を無視した直訳
  • 数値データの誤表記
  • 勘定科目の不統一
  • 注記と本文で表現が揃っていない

結局、社内の財務担当者が約1ヶ月かけて、手作業で全面的に直すことになりました。

——「初期費用は安かったのに、最終的にうちの人件費で何倍にもなりました」というお客様の一言が、今でも忘れられません。


「翻訳の安さ」は、後工程の誰かが必ず払っている

この案件で改めて見えたのは、翻訳費は消えるのではなく、移動するだけだということです。

外部への発注金額を圧縮すれば、その瞬間の経費は確かに下がります。でも、品質が足りない原稿は、

  • 社内の専門家が手直しする時間
  • 法務・財務・広報の差し戻しレビュー
  • 最悪、公開後に判明して訂正リリースを出すコスト

として、必ずどこかで顔を出します。多くの場合、最後の負担を引き受けるのは社内のいちばん忙しい人です。財務翻訳なら経理部の責任者。プレスリリース翻訳なら広報の現場担当。「外注は安くなったが、社内の残業が増えた」という構図は、私たちが何度も目にしてきました。

そしてこの構造は、AI翻訳の安易な業務利用で起きる失敗と、ほぼ完全に同じ形をしています。


AI翻訳の「もっともらしい嘘」がいちばん怖い

現在のAI翻訳は、訳文が驚くほど滑らかです。読んでいて違和感がないので、一見すると完璧に訳されているように見えます。

問題はそこです。

専門知識を持たない人が読むと、間違っていることに気づけない—これがAI翻訳のいちばん厄介な特性です。

財務翻訳の場面でよく見るのは、こんなパターンです。

  • 「営業利益」「経常利益」「税引前利益」の訳し分けが日米欧の会計基準でぐちゃぐちゃになっている
  • フランス語の数字表記(カンマと小数点の使い方が英語と逆)がそのまま英訳されている
  • 「のれん」「繰延税金資産」「持分法投資」のような日本独自・各国独自の会計概念が、一般語に置き換わってしまっている
  • 注記で使われていた用語と、本文の用語が食い違っている
  • 「百万」「十億」の桁が訳文でズレている
  • 原文の婉曲表現(「課題が残る」など)が、英訳では強い断定に変わっている

どれも、英文として読めば滑らかで自然です。財務の素人なら気づかないし、AIも気づかない。気づけるのは、会計と翻訳の両方を理解している人間だけです。

社内でここを全部チェック・修正する労力は、最初からプロに依頼する費用を遥かに上回るケースが後を絶ちません。


現代のトレンド「ポストエディット(PE)」と、その大きな罠

そこで現在、コストとスピードを両立させる現実解として広く使われているのが、ポストエディット(PE)です。

AI・機械翻訳が出力した下訳をベースに、プロの翻訳者が手を入れて仕上げるハイブリッドな翻訳プロセスのこと。発注側にとっては、ゼロから人手翻訳するより安く、AI出しっぱなしより安心、というメリットがあります。

ただ、ここで多くの企業が陥る罠があります。

「ポストエディット」と一口に言っても、会社やプランによって"修正の深さ"がまったく違う。

国際規格 ISO 18587 などでは、PEの品質基準が大きく2レベルに整理されています。

ライトポストエディット(Light PE)

  • 機械翻訳の結果を大まかに確認
  • 文法的な致命傷、明らかな誤訳、記号や数字の誤りだけを直す
  • 読みやすさや表現の自然さは深追いしない
  • 対象例:社内共有用メモ、大意把握のための参考資料、社外に公開しない文書

フルポストエディット(Full PE)

  • 専門分野の翻訳者が原文と訳文を徹底的に突き合わせ
  • 文の構造を組み替え、誤訳を直し、用語を統一
  • ネイティブが読んだときにプロ翻訳と区別がつかない品質を目指す
  • 対象例:年次決算報告書、プレスリリース、企業Webサイト、契約書などの外部公開文書

ここまで言葉だけ並べると、「ふんふん」と読み流せてしまいます。でも実務上、この差は最終的なアウトプットの信頼性に直結します。

もし、ボリュームある年次決算報告書に「コストが安いから」という理由でライトPEを当ててしまったら、どうなるか。

  • 文法的には間違っていない、けれど投資家が読むと稚拙に響く英語
  • 財務諸表の勘定科目がIFRSやUS GAAPの慣用と微妙にズレている
  • 注記の言い回しが、業界の他社IR資料と比べて違和感がある
  • 結果、IR担当役員から「これは外に出せません」と差し戻し

——結局、かつてのお客様が経験された「社内で1ヶ月かけて全面修正」を、AI時代のいま、再演してしまう。

外部に公開され、企業の社会的信用を左右する文書では、フルPE(または、AIを一切使わない人力翻訳)こそが、トータルで見て安価になる。これは私たちが現場で何度も繰り返し確認してきた事実です。


実務で起きている第3のグレーゾーン:「中途半端なPE」問題

ISOの基準上はライトPEとフルPEの2レベルですが、現実の市場ではもうひとつ厄介な存在があります。

それが、「フルPEと謳っているのに、実態はライト寄り」という案件です。

低価格を打ち出している業者の中には、

  • 翻訳者ではなく英語ができる程度の作業者が手直ししている
  • 1単語あたりの作業単価が安すぎて、読み直す時間がそもそも確保できていない
  • 専門分野の知識が不足したまま、用語の正誤判定ができていない
  • 原文と訳文を並べて読まずに、訳文だけを"自然な英語っぽく"整えている

というケースが、残念ながら存在します。

発注側からは、訳文だけ見ても判断がつきません。「読みやすい英語に見える」ので、フルPE品質だと信じて受け取ってしまう。ボロが出るのは、ネイティブのステークホルダーがレビューする最終段階です。そこで戻ってきても、納期は迫っていて、社内で直すしかない。

ポストエディットを依頼するときに見るべきは、料金プランの名前ではなく、「具体的に誰が、どの手順で、どのくらいの時間をかけて作業しているか」です。ここを質問して、明確に答えられる会社かどうかが、まず最初のフィルターになります。


見落とされがちな、もうひとつのフェーズ:「AIに渡す前」のリスク

ポストエディットの議論は、つい「AIが訳した後、人間が何をするか」に集中しがちです。

実は、もうひとつ大事なフェーズがあります。それは、「AIに渡す前」の原稿側の問題です。

たとえば、

  • 原稿のフランス語自体に誤字・脱字・省略がある
  • PDFからOCRで取り出した本文に文字化けが混ざっている
  • 図表の中の数字や脚注が、本文と分離されたままAIに食わされる
  • 用語集が用意されていないため、AIが同じ単語を段落ごとに違う訳語に当てる
  • フォーマットタグが本文に紛れ込んで、AIが意味を取り違える

こうした「原稿側の前処理」をプリエディットと呼びますが、低価格サービスの多くはここに手を入れません。汚れた原稿のままAIに通して、出てきた汚れた訳文を、軽く直して納品する。これでは品質が出るはずがないのです。

良質なポストエディットは、実は「原稿の前処理 → AI翻訳 → 用語統一 → 人力による精緻化 → 最終チェック」という多層プロセスで成り立っています。表面上「ポストエディット一式」と見えていても、内側のレイヤー数で品質はまったく変わります。


発注前に、ぜひ確認してほしいチェックリスト

ポストエディットを依頼する側として、最低限ここを聞いておくと安心、というポイントを挙げます。

  • どのMTエンジン(DeepL/Google/専用エンジンなど)を使っていますか?
  • ライトPEとフルPEのどちらに該当しますか?根拠は何ですか?
  • 担当者は、その専門分野の経験がありますか?経験年数は?
  • 用語集(グロッサリー)や翻訳メモリ(TM)の準備は誰が行いますか?
  • 原稿の前処理(プリエディット)は工程に含まれますか?
  • 数字・通貨・会計用語のチェック工程はありますか?
  • 納品後に修正要望が出た場合、どこまで対応してくれますか?
  • 機密保持の体制は?AIに投入する前に社外漏えいリスクは遮断されていますか?

特に最後の機密性は、財務・法務・人事系の文書では絶対に外せない論点です。無料のAI翻訳ツールにそのまま放り込むことで、知らず知らずのうちに原文が第三者のサーバに残ってしまうリスクは、いまも変わらず存在します。


NAIway翻訳サービスが選ばれる理由:とことん、キッチリ、おつきあいをモットー

NAIway翻訳サービスがお客様に選んでいただいてきた理由は、突き詰めると2つに集約されます。

① 各分野に精通したプロによる、品質管理体制

AI翻訳・機械翻訳の進化を熟知しているからこそ、私たちはその弱点をピンポイントでカバーする体制を整えています。

AIが得意とするスピードはきっちり活用する。けれど、AIでは届かない領域——専門用語、文化的ニュアンス、業界の慣用、会計基準の整合、読み手の温度感—には、必ずバイリンガルの翻訳者が入って手を入れます。

AIをどう使うか」ではなく、「AIを使いつつ、どこを人間が守るか」を設計するのが、私たちの仕事です。

② 納品後1週間の「安心無料検収期間」

翻訳は、納品して終わりではありません。

NAIwayでは納品後1週間(基本設定)の検収期間を設けており、その間にお客様側で確認いただいた修正のご要望に、迅速に対応します。

これは「サービスのおまけ」ではなく、私たちが品質に対して責任を持つための、約束された工程の一部だと考えています。


「初期コスト」と「トータルコスト」は、別物です

無料のAI翻訳ツールや、低価格を打ち出すサービスを選べば、その瞬間の経費は確かに下がります。

ただ、それは翻訳費が消えたわけではなく、社内のどこかに移動しただけです。納品後のトラブル対応、社内での手直し人件費、スケジュール遅延、最悪の場合は公開後の訂正・謝罪コストとして、必ずあとから請求書が回ってきます。

NAIwayの原動力は、納品後にお客様からいただく、

「今回、NAIwayさんに依頼して本当に助かった、よかった」

という、心からのお声です。

この一言をいただくために、最初の見積りから、翻訳作業、ポストエディットの設計、そして納品後のアフターフォローまで、文字どおり「とことん、キッチリ」お付き合いをし、ビジネスで本当に成果が出る品質をお届けすることを、サービスの根本に据えています。


こんなお悩みがあれば、お気軽にご相談ください

  • 現在利用している翻訳の品質に、なんとなく疑問がある
  • AI翻訳を業務に導入したが、クオリティを担保する方法に悩んでいる
  • ポストエディットを試したいが、ライトとフルのどちらが適切か判断できない
  • 過去に低価格翻訳でトラブルを経験し、もう二度と同じ思いはしたくない
  • IR、契約書、技術文書など、外に出して恥ずかしくない品質が必要

—どれかひとつでも当てはまれば、ぜひ一度、NAIway翻訳サービスへご相談ください。お客様の文書の性質、公開範囲、納期、ご予算をうかがったうえで、最適な翻訳・ポストエディットのプランをご提案します。